NAB就業教育研究所

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所長'sファインダー

「飯を食える大人」を育て、支えることに拘る、
赤坂にあるNAB就業教育研究所所長、佐々木直人のあれこれブログ。

プロフィール

佐々木直人

1973年生。
1998年三菱商事株式会社入社。ベンチャー企業の起ち上げから中央官庁まで、国・業界を問わず様々な新規事業を担当。中途採用のスキームを提案し面接官として合否判定や育成施策の企画にも携わる。 情報戦略統括部、経営企画部を経て独立し、2011年NAB就業教育研究所を設立。 学生や若手社会人のスキル向上、キャリア形成に正面から向き合い続けている。

“新卒一括採用”をやめると困るのは。その2

カテゴリー:就活



どこの大学にもいるほんの数%の“上位学生層”と、“採用に関する上位企業層”にとって、新卒一括採用があろうがなかろうが大きな影響はないだろうということが分かりました。


では、“中位学生層”と“中位企業層”にとって、新卒一括採用がなくなるとどんな影響が出るのでしょう?

これが如実に出ると思うんですよ


“中位学生層”とは、各大学における圧倒的なボリュームゾーン。特徴はとにかく和を保つ。自分から目立つような行動は起こさない。もう、徹底してやらない。憧れのアルバイトはオシャレなカフェとか、色んな人に接する接客ってカッコいい!とか言う割に、実際に一番多いのは引っ越しやお歳暮仕分けなどのバイト。理由は「バイト中、他人とほとんど会話をしなくても成り立つから」。


頭痛いですか?でも、しょうがないと思うんですよ。中学入学したその日から、“学校カースト”っていう目に見えない身分縛でガッチガチに固められ、とにかく自分が所属カーストから弾かれないように、上位にも下位にも放られないように、強烈な同調圧力とホントに必死で戦う6年間過ごしてますから。

これ、SNSを使えるようになってからさらに階層が細かく分化され、もう息の詰まりそうな思いをしてますよね。もちろん、他カーストを許容するような余裕はないですし、上位カーストを羨ましく思い下位カーストを蔑んで何とか自分を奮い立たせているわけで、「世界中の様々な背景を持つ人達の多様性を受け入れて一緒に働く許容力」なんて育つわけもなく。義務教育を受けるのと引き換えに致命的な何かを失っていないか、本当に心配です。プログラムミングや英語の前に、やるべきことあるでしょうね。

おのずと、就活でも一斉に「横並び」してしまいます。他の就活生より減点されたくないから、無難に同じようなことを一生懸命並べたてる。採用する側は加点して差異化したいのに、似たようなことしか言わない学生が大量に来る。こうして、不毛な消耗戦がまた幕を開けます。 


「今どきの学生は受身だ、言われたことしかやらない」、と嘆く大人の皆さん。
   そのスイッチ、実はあなたがお子さんにスマホを買い与えた瞬間に入ったものかもしれません。 


もちろん、ボリュームゾーンの子たちだって、本音ではカーストみたいなものに縛られるのをずーっと嫌だなと思っていて、新たな見方や自分が落ち着ける場所があることに気付けば、安心して伸びていってくれます。だから、中位層の学生は就活中に様々な魅力ある大人と出会い、壁にぶつかり、本気で叱られて、物凄く伸びるんですよ。意識もガラッと変わって、紆余曲折あったり憧れだった第一志望には通らない挫折などを経験し、最後には、将来のまだぼんやりとした目的に向かって「やるべき仕事」ができる「行くべき進路」を見つけてくれます。この子たちの伸びっぷりは間近で見ていると本当に嬉しくなりますね。


ただし、スタートするまではなかなかエンジンが掛かりません。同質ぬくぬく集団の中にいますから、大人の話は届きづらいし、周りの行動を見ながら自分の動きを決めがちです。こうした子たちが伸びる機会を確実に得られるようにするために、「さぁ、始まるよ~!」って誰かが一斉にスタートを教えてあげる必要があるわけです。

要は、新卒一括採用って、社会全体でコストを負担して「需要者気分から供給者気分へマインドチェンジ」をする社会教育の機能も果たしているわけです。学生が年々幼なくなっていくところを見ると、この役割は今後もかなり大きいのではないかと思います。


「そんなの、大学でやればいいよ!教育なんだから。キャリア教育!」という声もあろうかと思いますが、大学ってそもそもキャリア教育=実学を教えるように設計されてないんですよ。それに、「人と話すときに相手の目を見る」とか、「90分スマホいじらないで集中する」とかって、幼少期から家庭・義務教育・地域社会の中で育む話で、最後の帳尻だけ大学に負わそうって言うのはちょっと虫が良すぎやしないか、と。予算は削る一方なのに。

考えてもみてください。働くうえでのマインドチェンジはなく、仕事に最低限必要な読み書きのスキルもまるで磨かれていない子たちが、新卒として職場を闊歩したらどうなります?「キャリア教育は企業活動のためになるんだから、後は企業で教育してやってくれ」って、高等教育から先送りされてしまったら。職場が機能停止しそうでゾッとしますよね。


というわけで、誰かが一斉に「始めるよ~!」って声を掛けてあげないと、“中位学生層”は社会人としての就業意識を高め大きく成長する機会が損なわれる懸念があります。そうなると、職場には人数合わせのポンコツが大量に送りこまれることになり、やがて優良な働き手の環境を侵食し、組織を疲弊させ、業績の低迷に伴い唯一誇れる役割であった消費者としての力もなくなる(=稼げなくなるから使えなくなる)と連鎖してくことでしょう。

そもそも、どう活動したらいいのかを試行錯誤しているうちに就活が終わってしまい、マッチングがうまく機能せず「潜在能力はあるのに就職できない新卒」が大量発生するかもしれません。売り手市場なのに氷河期、とかいう謎の時代が到来したらどうしましょう。


一方で、“採用がそこそこの企業群”はどうなるか。なんせ惰性で採用施策を回してますから、今まで以上にインターンに人は集まらず、エントリーは減っていき、採用辞退者は増え、という悪循環にゆっくりと陥るでしょうね。求める人材像として「自ら積極的に行動し、周囲を助け新たな局面を切り拓く挑戦意欲が高い人材」なんて聞くことありますけど、そんな人材御社の社内に1人でもいます?百歩譲っても多数派じゃないですよね?採用パンフレットの表紙にデカデカと書かれた「挑戦」「志」の文字。あれを見て、学生がパンフレットを興味津々で開けると本気で思ってます?自分たちも選ばれる側なんだって意識が低すぎやしませんか?


学生がパンフレットを手に取るのはどんな情報が欲しいからなのか。それに対し、どんなメッセージを設計しないと刺さらないのか。顧客相手には丁寧に対話するのに、なんで学生だと雑に扱うんでしょう?欲しい情報にたどり着くまでの時間が無駄に長いのは、“他人の時間を奪っている”ってことです。今の若い世代が一番敏感なポイントでもあって、スーッと学生が笑顔で引いていきますよ。


というわけで、“採用がそこそこの企業群”もいよいよ「自社の採用は、これからの事業環境と社内資源を踏まえて、自社で真剣に手間暇かけて設計する」って考えないと、いよいよ人を採れなくなっていくぞ、ってことですね。もちろん、競争原理が働いて採用を真剣にやるのはいいことですが、人もお金もそうそう掛けられないでしょうから、丁寧に採用のプロセス見直してはいかがでしょう?そもそも、本当に手間と資金を掛けるべきところにかけているのか?ほとんど意味のないことにせっせと工数をかけていないか?刺さらないメッセージをまき散らしていないか?などなどなど。 


新卒一括採用に変わってどんな仕組みが登場するかはわかりませんが、“中位学生”という働き手としても消費者としても一番のボリュームゾーンである彼らが、社会を支える側に立とうという教育装置的な仕組みを誰が委託され、いつ、どのように進めていくのかを明確にしていく必要があります。不毛な手続き、不毛なやり取り、謎の支援業者などなどがあふれ、学生も採用する企業も疲れてしまう今のマーケットは、昔から変わることなくあまりにも程度が低く、参加者が気の毒です。